テレサ・テンの死に関しては、やたらとセンセーショナルな取り上げ方がなされるので嫌なのですが、比較的客観的な書き方ので、テキスト化して残してみることにしました。
（右ページ）
1995年死亡（享年42）
中国政府に狙われたアジアの歌姫
テレサ・テン
日本でも数々のヒット曲を飛
ばした台湾出身の歌手テレ
サ・テン。中国の一党独裁政
府を批判し、天安門事件では
香港で抗議集会に参加するな
ど、中国の民主化運動を支援
した。タイのチェンマイで他界。
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Profile
テレサ・テン
1953年、台湾生まれ。10歳のときに
ラジオ局のコンテストで優勝し、14歳
で歌手デビュー。16歳のときに女優
デビューして以降、東南アジアで人気
が爆発。18歳で香港デビューし、アジ
アの歌姫となる。日本では1974年よ
り歌手活動を開始。アイドルとして売
り出すも、成績は芳しくなく、方向を
変えて演歌路線にした『空港』で大ブ
レイク。1979年にインドネシアのパス
ポートで日本へ入国をしようとしたと
ころ、旅券法違反で国外退去処分に。
1984年にファンの要望により再来日。
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天才的な歌唱力と
語学力でアジアを席巻
日本の歌姫といえは美空ひばり
だが、アジアの歌姫といえば？
それはテレサ・テン。ひばりのよ
うに、天才少女としてデビューし
た後、アジアで大ブレイク。日本
での歌手活動も成功させた後、当
（左ページ）
台湾では中国共産党批判の象徴であったが
中国でも大人気だった
時は故郷・台湾と国交がなく、彼
女の楽曲を放送禁止した中国で
もブレイクしてしまったという逸
話を持つ。その人気は累計売り
上げ枚数１億枚超という数字から
も、桁（けた）外れの人気だったことがわ
かるだろう。
彼女の人気がそれほどまでに広
がったのは。歌唱力はもちろんの
こと、北京語、広東語、台湾語、
英語に加え、マレー語や日本語ま
で堪能だったという語学力にあっ
たとされる。どの国に行っても、
その国の言葉でファンに寄り添い、
彼女の人気の後押しをした。
そんな彼女が42歳の若さで他界
したのは、気管支喘息の発作
が原因とされている。もともとぜ
んそくを患（わずら）っていた彼女は、たび
たび静養のためにチェンマイを訪れ
ていたが、最後の地も彼女のお気
に入りの別荘がわりの定宿だった。
これほどちゃんとした死因が公
表されているのに、いまだ彼女の
暗殺説や生存説が出るのは、彼女
と日本の関係に起因していると思
われる。
中国共産党から
マークされていた。
彼女は国葬を執（と）り行なわれたほど
の台湾のスーパースター。アジア
の歌姫だから、というだけではな
い。彼女は、台湾における中国共
産党批判のシンボルだったのだ。
天安門事件のときは、テレサ・テ
ンは、香港で行われた共産党への抗
議集会に参加して、中国共産党か
ら目をつけられていた。それだけ
ではない、彼女の楽曲は、はから
ずも中国では海賊版で出回り大人
気を博していたため、中国側とし
ては国家を揺るがしかねない存在
になりつつあったのだ。一方で、
彼女は国民党の宣伝塔でもあった。
彼女の父は軍人で、中国本土から
移住してきた国民党員。それゆえ、
彼女は中国からマークされていた
というのは、有名な話になってい
る。彼女は、一貫して中国共産党
の一党独裁を否定し、最初は香港
に居を構え、香港の中国返還が近
づいたときには、フランスへ移住
している。また、彼女の出自と、
各国を行き来していたことで、彼
女には国民党のスパイだったので
は、という説まで出たほどだ。
それゆえに、彼女の死の裏には、
中国政府が関与しているのではな
いか、という噂が流れた。じつは、
彼女の死の前から、彼女の周りで
は不可解な事件が多く起きていた。
強盗の襲撃にあった、とか、不審
人物がつきまとう、とか。その手
の事件はしょっちゅう起きていた
ことで、テレサ自身もそこに共産
党の影を見ていたのかもしれない。
あと一つ不可解なことが、彼女
と一緒にいたフランス人の恋人が、
彼女が病院に搬送されたときには
不在だったため、戻ってすぐに病
院に行くように促したにもかかわ
らず、２時間を経てから行ったこ
と。そして解剖を禁ずるサインを
したことが挙げられる。晩年最後
の恋人に味噌（みそ）をつけるのは無粋（ぶすい）だ
が、このエピソードも彼女の暗殺
説に拍車をかけた。
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●テレサ・テン ３つのキーワード
天安門事件
1989年に中国北京で発生した。若者たちによる民主化デ
モの人民解放軍による弾圧。これが世界に報じられると、
即中国政府を批判する運動が巻き起こる。テレサもそこに
参加し、香港で集会に参加して自分の曲を披露した。こ
のことが原因で、熱望していた中国でのコンサートは実現
することがなかった。
生存説・死亡説
彼女が実際に亡くなる前に、死亡説が２回流れた。１度目
は1990年に彼女の父親の葬儀を欠席したとき、２度目は
1991年に病死、または暗殺されたというデマが流れた。
そのたび、本人がマスコミに登場し、自身でデマを否定。
生存説は今でも残っており、彼女は本当は死んでおらず、
国民党のスパイとして生き続けているというもの。
両親
父親は中国河北省、母親は山東省出身の中国人。中国本
土で蒋介石率いる国民党が敗れ、台湾に移住した外省人
の両親を持つ。それゆえに、彼女は軍の慰問活動を積極
的に行い、中国大陸でのコンサートを夢観ていたという。
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文／よしいろまさみち
