先日(2013年2月3日(日))のNHKの放送「沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚 〜"戦場"写真 最大の謎に挑む〜」で、それが紹介されました。放送自体は見られなかったのですが、同僚が録画したものを見せてもらいました。

番組の再放送を見たい人は、以下は読まない、見ないでください。

今回の番組以前に、すでに「でっちあげ」については知られていたようですが、この人の発言にあるような「有名になるためにでっちあげた」よりも、もう少し違う事情があるようです。

「謎」の解明の鍵となったのは、同じ場所で撮影された写真43枚が近年になって発見されたことです。
43枚の中には、このような写真もあります。戦場の場にこんなのんびりとした場面があるはずはありません。そして、左端には白いシャツの人が写っています。43枚に写っている「兵士」で白いシャツを着ているのはこの人だけで、「崩れ落ちる兵士」と同一人物と思わるそうです。

また、この兵士たちの持つ銃(ライフル)を見ると、すぐには発砲できない状態になっているものが数多く写っていることから、実際の戦いの場ではなく演習だと分かるようです。

そもそも、「崩れ落ちる兵士」が発表された1936年9月23日以前に、ここで戦闘が行われていないというのです。
「崩れ落ちる兵士」の直前に撮影されたと思われる写真。背後に尻餅をつきそうな姿勢の白シャツの男が写っています。銃も上下逆さです。

背後の地面上の特徴ある草(?)の形からほぼ同位置だと分かるのです。

ただし、カメラの立ち位置が僅かにずれていないと、それぞれの写真のような背景(遠方の山々)になりません。また、フィルムを手動で巻く当時のカメラで、これらを続けてごく短時間に撮影することは困難です。


ところで43枚の写真は、キャパとゲルダ Gerda Taro Retrospective の2人が違うカメラ(画角も縦横比も異なる)を使って撮影されたものです。

1:1のカメラで撮影すると、焦点距離(画角)そして背景から、このような写り方をすることが計算上分かるそうです。緑色の線が、写真の縁になります。
連続する2枚の写真は、別のカメラで別の人物が撮影すれば、撮影が可能・・・。

2:3のカメラで撮影をすると、このように上部5%が収まらないことがCGを使って計算上分かります。

ということで、「崩れ落ちる兵士」を撮影したのは、実は・・・という話でした。
ここまでだと、謎解きの番組に終わってしまうのですが、どうしてゼルダの撮影した写真が「キャパ」という名前の実在しないカメラマンの名前で発表されたのか、そして、ネガが存在しないのか、ロバート・キャパがどうして、「崩れ落ちる兵士」について語ろうとしなかったのか、スペイン戦争の写真集に「崩れ落ちる兵士」を掲載しなかったのか、などに関連して番組は締めくくりを迎えます。
この写真を最後に、キャパは40年の生涯を終えたそうです。ゼルダは「崩れ落ちる兵士」発表以前に戦場で死んでおり、キャパにとっては、実は誰にも語ることができず苦しんだ生涯だったことでしょう。
そもそも、"The Falling Soldier"というのは誰がつけたタイトルなのでしょう。"The Shot and Falling Soldier"ではなく、文字通り"The Slipping and Falling Soldier"という点で、嘘ではありません。
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ところで番組の途中で、こんな1枚の写真が紹介されました。
ドイツ軍から解放された街で撮影された、戦争中にドイツ軍に強力をしたフランス人女性の写真です。頭は丸刈り。避難と嘲笑の対象になっています。
最大の屈辱を受けているわけで、自らこんなことは出来ないわけですが、たまたま日本では自ら(?)そんなことをした芸能人がいることを思い出しました。
それから「愛と哀しみのボレロ」も。
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追記
今、「ロバート・キャパ/ゲルダ・ダロー 二人の写真家」という企画展を横浜美術館でやっています。
2013年1月26日〜3月24日
2月3日には沢木耕太郎氏の講演会も行われています。どうも、この企画展や講演会に合わせて放送された番組であるように思われます。
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追追記
どうでもいいことですが、The Falling Soldierの右下を見ると、Robert Capaというサインが入っています。どんな気持ちで入れたのでしょうね。
